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とおいきおく [随筆 猫]







かさなりあうとき
ぎゃくかいてんはじめる
はぐるまと きおくと













もう すっかり忘れていたと思っていたのに
突然、そのときの記憶がよみがえるってあるんだね。




歳をとりすぎたあたしゃ、日がな一日を寝て暮らす毎日だったが、
一日に一度ほどは、それでもまだ外へと散歩に出かけている。
外に出ると近くの電線にすずめたちが群がって、
忙しなくあたしを囃したてるが、
いまじゃ、そんなことぐらいで慌てることも無い。

ボーイフレンドもいるにゃいるが、あいつもこの頃ちょっと歳をとって、
木漏れ日を浴びている苔のベッドで、のんびり昼寝をしている始末。
笑っちゃうじゃないか。。。
ボーイフレンドというよりも、茶飲み友達になっちまったみたいだよ。

そんな平たい毎日が続いていたある日、デジャブにも似た記憶のよみがえりが起こったのだ。







あれは・・・。。。そう。。。
深まりゆく秋と共に寒さが身にこたえだした、ある夕暮れのこと・・・。
あたいはいつもどおりに小さな玄関から散歩をするために、
家の裏手から表へと回ったときのことだった。

家の横には小さな引き込みの私道があり、
そのすぐ隣は雉一家の住む休耕田になっていた。
夕日を浴びた電柱の影が、長く伸びてきた辺りに、
普段ならそこにあるはずの無い、見えるはずの無い小さな塊の影があるのに、ふと気付いた。
そこであたしは恐るおそる、その影を利用して慎重に近づいていった。
すると突然その塊の影が解け、なんだかもぞもぞと動いたような気が・・・。

あたしは足を止めて、もう一度ぢっと目を凝らしてみた。
そうこうしている内に、陽は少しずつ傾きを変えると、
電柱の影が南の方へと移動して、その塊を明るい日の元にさらしだした。
あっ!! ねこだ!!
三毛猫だわ!! オンナだわ!!
ぎゃ~!!! ぎゃ~!! ふんにぁあ゛~








とにかく、女同士というのは家を守るもの同士なので、
出逢ったら、とにかく鳴き声から喧嘩を始める。
このときのあたしもご他聞に漏れず、すぐさま戦闘体制に・・・
となったまではよかったのだが、
この声を聞きつけたおかあちゃんが、慌ててあたしを探しに来て、
三毛猫を追っ払っちゃったんだ。。
だけどあたいは興奮の絶頂にあって、
抱えあげられてからも、腕の中でジタバタと暴れ
フーフーと気を吐きまくっていたの。
だって・・・
一線も交あわずに逃げ帰るようになっちゃ~
オンナが廃(すた)るってもんでしょ!!!
けど、あたしはそのまま家の中へ・・・
お母ちゃんがおやつにってくれた生クリームをなめた途端、
あの出来事さえ忘れちゃって・・・

ってさ!
ちと、これって情けなくねぇ~!?
あーぁ
いくつになっても、食べ物にゃうまいこと釣られちまうってことだねぇ~。。








漆黒の闇を解くように、高い山の天辺から月が顔をだし、
空がベルベットブラックの波を打ち始める頃
なんとなく肌寒さを覚えたのか、身体がブルブルと振るえ、
あたしは爆睡の海の底から引きずり出されるかのように目を覚ました。

明かりの漏れてくる窓の外に目をやれば、
背の高い木の影が、真上からこぼれる月明かりで
申し訳なさそうに、駐車場のアスファルトの上に
ホンの少し枝葉を映していた。

あたしはなんとなくそんな風景を眺めていたが、
よく目を凝らしてみると、その横に小さな耳の影が・・・。


あっ! あいつだ!!
きっとそうだ、そうに違いない!!

あたしはますます目が冴えて、ふつふつと湧いてくる興奮を抑えるのに必死だった。

もうすこし  もう少し近くまで来ないと・・・







どんどんと心臓の音が大きくなってくるのに、
だんだんと呼吸が少なくなってきて
ずんずんと頭の中になんかの音がこだましだす・・・



中庭の真ん中まで歩いてきたあいつが、苔むした小さな中石の上で丸こまった。
三毛猫だ!!
みけねこだ!!

にゃあ~


小さな声が聞こえてくる


なんだか 前にも呼ばれたような、そんな鳴き声。



にゃあ~


いつの間にかあたしは、その三毛猫に首の後ろをくわえられて、
プラプラ揺れながら、月明かりの中を歩いている。

どこへ・・・?


ぷらぷら ぷらぷら


どこへ?







小さな穴をかいくぐり、真っ暗な長い道をくねくねくねくね。


なんだか、いつかの日もこんなことがあったよね。


くねくね くねくね



遠くに四角く明るい光のある場所が・・・。



その場所がずんずん近づくと、そこにはたくさんの子猫たちが。。。







あたしは驚きと不安でキョロキョロしていると、急に頭上から声が聞こえてきた。


「あら、この子が最後の子ね」
「みっちゃん。。えらかったわね。」
「みんなすっごくかわいいわよ。」

するとその三毛猫は得意満面の顔で、自慢げににゃぁと、ひと言。

その途端
あたしは オチテイク 堕ちいてく
ずうっと深いどこか懐かしい その場所へ・・・


たくさんの兄弟姉妹 やさしくたくましい三毛猫かあちゃん

忘れていた日のキオクが 甦っていく





おか~ちゃあ~ん








とおいきおく
いつも こころのおくそこで
もとめても おいつけなかった
あの とおいきおく

あたしはいま
やっと あのひのははをだきしめられたようで


とおいきおく
あいしている あいしている
よろこびときぼう

ときのふねに のりこんで
きょうはひとり
あいしてる
あいしてる
そのおもいを むねにだいて







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