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やくそく [物語 虫たち]






おひさまが まあるいすがたにもどるまで


おどりつづけなければいけません








もう夏も間近だというのに
とてもとても寒い日が続いていたある日の朝
もうすぐさなぎになろうとしていた 小さな芋虫たちが
その寒さにやられて ボロボロとキャベツの葉の上から転がり落ちていきました。

親虫たちは、薄い翅で必死に暖めたり抱きとめたりしていましたが、
ポロポロ ぽろぽろと落ちて死んでいく芋虫を、助けてやることは出来ませんでした。
そうして死んでゆく虫たちの兄弟の中に、少し早く羽化した娘がおりました。
娘は嘆く母達を見るに忍びなく、何とかしなくてはと季節の風の元に飛んでいきました。

「風さん どうしてこんなに寒くなってしまったの?」
「やっと暖かくなり始めて、これから・・・って言うときなのに。。。」

ああ。。若い蝶のむすめさんか。。
わしにもよく分からないんだよ。
もしかしたら あの雲が知っているかも知んないよ。
そこまで運んであげるから、雲のヤツに聞いてごらん。

そう言うと、風は風袋の口を少し緩めて、ぴゅーっと風を噴出しました。
若い蝶の娘さんはお礼を言うと、その風に乗って、
お陽さまに一番近い雲まで、飛んで行きました。


ねずみ色の雲の上に腰を下ろすと、若い蝶の娘さんは尋ねました。

「雲さん、どうしてこんなに寒くなってきてしまったの?」
「お陽さまは煌々と輝いて、夏に近づくときの高さまで昇っているというのに・・・。」

はぁ。。。どうしたことだろうのぉ。
お前さんたちのところも寒いじゃろうが、ここはもっと寒いのじゃ。
いつもだったら、わしはもう北へと旅立っている所なんじゃが、
どうもいかん・・・

わしが北へと旅立とうとすると、太陽がわしの袖を引いて引き止めるのじゃ。
どうしてかと聞いても、ただ泣くだけで埒が明かぬ。
どうじゃ、おまえさんが直接聞いてみてはくれまいか?
太陽を隠して雪を降らせるわしの役目は、とっくのとおに終わっているはずじゃからの。

「そんなぁ・・・。。あたしにそんなこと出来るかしら?」
「とにかく聞いてみるから、少しの間雲さんの上を歩き回らせてくださいね。」
と言って雲の上をそろりそろりと歩いて、お陽さまに精一杯近づいて尋ねました。


「お陽さま、どうしたの?」
「私たちの住むところが、とっても寒くなって・・・。」
「このままじゃ、やっと育ち始めた命がみんな、死んじゃう・・・の。。」


こりゃ、若い蝶の娘さん。
私にもよく分からないのだが、どんどん身体が細くなっていっているんだ。
誰かの手を握っているか、何かを見続けていなくては、
私が消えてしまいそうで、とても不安なのだ。
北へ帰るはずの雲を引き止めておけば、
ますます寒さは倍増するのは分かっているんだけれど。
不安なのだよ。

せめて私が元の姿に戻ってこれるよう、見続けていられるものがあればいいのだけどね。
この世界から、眼を離してしまうのが怖いのだよ。
戻って来れないようで・・・。

少し暖かさをとり戻すためには、あの雲を北へ返してしまうのが、
一番早い方法では有るのだが、そのかわり・・・。
その代わり、誰かが私を引き止めていてくれれば、
私のこの不安も、少しは軽くなると言うものだ。

「太陽さん!! あたしがあの雲さんの代わりになりましょう。」
「少しでも暖かさが戻れば、助かる命も多いと言うものです。」
「あたしが花の間を踊りながら行き来をしますから、それから目を離さないでいてくださいな。」
「そしたら、あたしを見続けなければいけないから、
 お陽さまも何処かへ行っちゃうことは出来ないはずですから。」

そう言うと若い蝶の娘は、少しずつ小さくなっていく太陽を見つめながら、
パタパタパタと翅を羽ばたかせ、舞い始めました。
太陽は恐るおそるその雲の手を離し、飛び回る蝶を目で追いかけだしました。

北へ戻る雲が去っていくにつれて、少しずつ大地は暖かさをとり戻し始めました。
太陽はどんどん小さくなっていましたが、不安が少なくなったのか、
その顔には笑みさえ浮かび始めました。


舞い踊る蝶を、物陰から狙っているものがおりました。
ここしばらくの寒さで、仲間や家族を失っていたのは、
蝶だけではなかったのです。

物陰から狙っていたのは、空腹で息も絶えだえの若いカエルでした。
カエルもまた寒さから餌も捕れなくなり、家族や兄妹をたくさん亡くし、
その家族を助けるために旅に出てきたところでした。
ひさびさに見つけた、元気のよさそうな蝶。
これさえ掴まえれば、自分の命があと一日延びて、
もう少し家族のための餌探しも出来ると言うもの。。

若いカエルは葉っぱ陰に隠れて、襲い掛かるタイミングをはかっていました。










蝶が少しふらついたのを見た瞬間に、
カエルは物陰から勢いよく飛び出しました。
勢いよく・・・と思っていたのは、カエルばかりで、
実際には、よろよろと姿を出したに過ぎなかったのですが、
不意をつかれた蝶は、あせって羽を傷つけてしまいました。

若い蝶の娘さんは言いました。
「カエルさん、どうしたのですか? こんなところに・・・」

するとカエルは言いました。
「もうお腹がすいて倒れてしまいそうで・・。」
「せめてお前でも食うことができりゃ、今日だけでも生き延びられると言うものだ。」

息も絶えだえなカエルを見て、かわいそうだと思いましたが、
ここで蝶も命を失うわけには行きませんでした。
そこで蝶は少し高く飛びながら、カエルに言いました。

「あたしを食べて、あなたの命が助かるのなら、
 あたしは少しも悲しくはありません。」
「ただ、ここしばらくの寒さのせいで、多くのモノ達が死んでいく
 それがとても悲しいのです。」
「そのために交わした、お陽さまとの約束。」
「お陽さまの願いが叶ったら、また元の暖かな季節がやってくるはずです。」
「そうすれば。あなた達の食料となる、あたしたちも増えることが出来ます。」
「だからどうぞ・・・・お陽さまの願いが叶うまで、
 このままあたしを踊り続けさせてくださいませんか?」
「お陽さまが、もとのまん丸に戻りさえすれば、きっと・・・。」


分かりました。
あと少しだけ待ってみましょう。。。
そうカエルは言って、また草の陰へと隠れてしまいました。


「カエルさん! もう見つかっているのに、どうしてまた隠れたりするのですか?」
そう問う若い蝶に向かってカエルは言いました。

ぼくも、大空を舞っているカラスに狙われているからだよ・・・って。


太陽はだんだん小さくなって、三日月よりも薄くなって、
もうすぐにも消えてしまいそうでした。
気温は前にも増して大きく下がり、若い蝶も飛んでいるのが辛くなるほどでした。
そして、まわりが真っ暗になった瞬間、バランスを崩して落っこちていきました。
そのときです、
葉っぱの影に隠れていたカエルが、懇親のチカラを込めたスピードで飛び出して、
地面ギリギリのところで抱きとめてくれました。
そして両腕をゆっくり広げると、やさしく空へと飛び立たせてくれました。

カエルはその若い蝶が再び高く舞い上がるのを見ると、
力尽きてその場に突っ伏してしまいました。

あの時、あたしがバランスを崩さなければ・・・。
あんなにも、全力であたしを助けようとしなければ・・・。
落ちて行ったあたしを、食べてさえいれば・・・。
あのカエルさんも命を落とさずにすんだのに・・・。

そう思うと、若い蝶は涙が止まりませんでした。

あのカエルさんのためにも、お陽さまが戻ってきてくれるまでは飛び続けなくっちゃ。。。

ひとときも休まずに飛び続ける蝶の羽は、あの美しかった頃とは比べ物にならぬほど傷つき、
所々が破れたりしていてもなお、高く低く舞い続けました。







やがて、三日月よりも細く、真っ暗になっていたお陽さまから、
行く筋もの眩い光線が現れ始め、
どんどんと加速しながら、大きく膨らんでいくのが見えました。
それに比例するかのように、若い蝶の羽ばたきは少しずつ鈍くなり、
どんどん高度が下がっていきました。
そしてお陽さまが元の大きさに戻ったのを確認すると、
ほっと小さな息をもらし、突っ伏しているカエルの上へ・・・。

カエルさん・・
どうぞ、あたしを食べてください・・・。

そう言うと少し微笑んで、命を落としてしまいました。


空から、その一部始終を見ていた太陽は嘆きました。
私の身勝手な思いが、こんなにも心やさしい者達を傷つけてしまったなんて・・・。
互いに食べられてしまう仲のものたちでさえ、
こんなにも相手を思いやって生きていけるなんて・・・。

太陽は風に頼んで、若い蝶とカエルの亡骸を、
大きな木の根元に運んでもらい、
小さなお墓を作りました。
そして、次に自分の身が小さくなっていくときには木陰に自分の姿を映し、
その満ち欠けを眠っている二人にも教えるようになったそうです。
ちゃんと元通りに大きくなるから、
心配しないでいておくれ・・・ってね。






   * * * 記憶 * * *

殴り書きなので、後日もう一度まとめてHPへアップします。


   * * * 追記 * * *

ほとんどまとまりは付いていませんが(汗)、
音楽と写真付きでHP「きみ、想うとき・・・。」にアップいたしました。
よろしければ、リンクよりお越しくださいませ。

                        2009. 7.28



  * * * 追・追伸 * * *

もうひとつのブログ「ゆめのこころ」に、改訂版をアップしました。
だいぶん違っていますので、こちらも読んでいただけるとうれしいです。

2009.12.10




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コメント 4

銀四郎

先程は僕なんかの駄ブログにご訪問&nice!を有難うございました^^
by 銀四郎 (2009-07-18 13:59) 

銀四郎

↑ってか、初nice!
光栄。。。笑
by 銀四郎 (2009-07-18 13:59) 

ゆめ乃

銀四郎さん、こんばんは。
先日はステキなお写真を見せていただきまして、ありがとうございました。
nice!の押し逃げをしてきたあたしを追っかけてくださって、
うれしいうれしい初nice!&初コメントを残していただけたこと♪
すっごくうれしかったです。
ありがとうございました。

by ゆめ乃 (2009-07-19 02:45) 

ゆめ乃

猫屋福助(株)さん、こんばんは。
nice!をありがとうございます。
昨日は、男前のにゃんこさまにホレボレさせいて頂き、
にゃんこごころがときめいてしまいました^^

by ゆめ乃 (2009-07-19 23:49) 

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